8月25日(現地時間)に実施となるプライムタイム・エミー賞で、作品賞(ドラマシリーズ部門)2年連続受賞の期待がかかる『ブレイキング・バッド』に関する秘話が明らかになった。同番組でキャスティング・ディレクターを務めたシャロン・バイアリーとシェリー・トーマスは、『ウォーキング・デッド』や『アンダー・ザ・ドーム』などの人気ドラマを手がけるベテランだが、『ブレイキング・バッド』としては今年のエミー賞ではじめてノミネートされた。
E! Newsの取材に対し、バイアリーは『ブレイキング・バッド』の秘密を明らかにした。
「実は、たくさんの人気俳優が電話をかけてきて、『大ファンだから、番組にぜひ出して欲しい』と言ってきたんです。でも、知名度がありすぎたために、起用することができませんでした」
ラブコールを送った有名俳優とは、今年2月に亡くなったオスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンや、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』や『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ集団』で知られるコメディ俳優マイケル・セラのことだ。企画・製作総指揮のヴィンス・ギリガンは、なんと彼らの出演オファーをすべて断っていたのだ。
いまでこそ、主演のブライアン・クランストンはスターの仲間入りを果たしたが、放送開始時は無名にひとしかった。実際、米放送局のAMCは、ジョン・キューザックやマシュー・ブロデリックといった映画俳優にアプローチをしたほどだ。しかし、ギリガンはウォルター・ホワイト役をこなせる俳優はクランストン以外にいないと主張。かつて脚本家として参加していた『Xファイル』にゲスト出演したときのクランストンの演技を見せて、AMC上層部を説得したという。
キャスティングに関するギリガンのアプローチはシンプルだ。あまり顔が知られていない演技派俳優を起用すれば、視聴者は登場人物がリアルな存在だと信じてくれやすくなる。
たとえば、『ブレイキング・バッド』の名悪役としてガスタボ“ガス‘フリングがいる。表向きは堅実なビジネスマン、裏ではドラッグ流通を牛耳るという、大胆にして冷静沈着な頭脳派だ。もし、このキャラクターをフィリップ・シーモア・ホフマンが演じていたら、たとえば『M:I:III』の悪役のように見事にこなしていただろうが、誰もが顔を知る名優だけに、視聴者は現実に引き戻されてしまっていただろう。だからこそ、ギリガンは無名のジャンカルロ・エスポジートを起用し、シリーズを代表する名キャラクターに仕立てあげたのである。
現在制作中の『ブレイキング・バッド』のスピンオフ『Better Call Saul』でも、無名俳優主義が採用されている。それでも、キャスティング・ディレクターのシャロン・バイアリーとシェリー・トーマスのもとには、俳優やエージェントからの売り込みが絶えないという。