ハリウッドを代表する2人の大物が手を組んだ。1人は『ソーシャル・ネットワーク』(10)、『ドラゴン・タトゥーの女』(11)など、世界に衝撃を与え続ける鬼才、デヴィッド・フィンチャー監督。そしてもう1人は、『セブン』(95)でフィンチャー監督と組み、『ユージュアル・サスペクツ』(95)でアカデミー賞の助演男優賞に、『アメリカン・ビューティー』(99)で同賞の主演男優賞に輝いた、当代を代表する実力派男優、ケヴィン・スペイシー。
2人が挑んだプロジェクトは、近年ハリウッドで映画以上にエキサイティングなエンタテインメントとなったドラマシリーズ。そこは現在、映画界の大物や異才、人気スターが、“映画では行けない”新たな高みに到達すべく、旺盛な創造意欲をぶつける場所になっている。ここを通らずしてキャリアを前進させられるクリエイターは、もういない。フィンチャーが第1・2話の監督を、スペイシーが主演を務めると共に、2人が製作総指揮まで買って出た話題の最新ドラマシリーズ大作が、この『ハウス・オブ・カード 野望の階段』だ。
スペイシー演じる主人公フランクは、ホワイトハウス入りを夢見てきた政治家。自分が支持する候補が大統領になった時、夢は叶うと喜んだが、新大統領を始めとする権力者たちはフランクを裏切り、その出世を拒む。しかし、そんな状況に甘んじるほどフランクは臆病じゃない。むしろ逆境に置かれたことで、フランクの底知れない闘争心に火がつく。
“俺の敵はホワイトハウス”。強大な権力を盾にかざす国家の中枢に、フランクは大胆不敵に斬り込んでいく。武器は2つ。緻密な知略と、平気で他者を犠牲にできる無慈悲のハート。利用できるものはすべて利用する報復の戦いに、フランクは飛び込んでいく。
プライドとキャリアの両方を傷つけられた男の野心に、熾烈な駆け引きや運命のいたずら、男女の欲望などが複雑に絡んだストーリーは、一度見始めると止まらなくなる面白さ。日本の流行語“倍返し”を思い出させながらも、展開のスケールはまさにハリウッド級だ。
目的のためには何でもする男フランクを、スペイシーは時にクールに堂々と演じたかと思えば、時に人間味たっぷりな巧演も。“TV界のアカデミー賞”である第65回エミー賞や、第71回ゴールデン・グローブ賞でドラマシリーズ主演男優賞にノミネートされた。
そんな第65回エミー賞では、フィンチャーに対するドラマシリーズ監督賞など3部門で受賞。また、フランクの妻クレアを演じるロビン・ライトが第71回ゴールデン・グローブ賞テレビの部で主演女優賞に輝き、テレビより先にネット配信で公開されたドラマとしてエミー賞とゴールデン・グローブ賞の両方で初受賞するという歴史的快挙をなしとげた。
スペイシーやライトらを相手にフレッシュな魅力を見せる、新星ケイト・マーラの魅力も見ものだ。フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』でアカデミー主演女優賞にノミネートされたルーニー・マーラを妹に持ち、主人公フランクを翻弄し続けるセクシーな若手女性記者、ゾーイの役を体当たりで熱演。男性ファンの急増を予感させる。
監督陣はフィンチャー以外もジェームズ・フォーリー(映画『NYPD15分署』他)、ジョエル・シューマカー(2004年版の映画『オペラ座の怪人』他)、チャールズ・マクドゥーガル(TV「SEX AND THE CITY」「デスパレートな妻たち」他)、カール・フランクリン(映画『青いドレスの女』他)、アレン・コールター(『ハリウッドランド』他)と充実。
本作には原作がある。イギリス保守党でマーガレット・サッチャー首相のアドバイザーをつとめたマイケル・ドブスの初小説「ハウス・オブ・カード」と、後に『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)を手がけるアンドリュー・デイヴィスが脚色を担当し、イギリスBBCが映像化したドラマ「野望の階段」(90)だ。このハリウッドリメイク版『ハウス・オブ・カード 野望の階段』では、かつてヒラリー・クリントンら大物政治家たちと働き、映画『スーパー・チューズデー~正義を売った日〜』(11)によってアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にノミネートされた脚本家ボー・ウィリモンが企画を担当。2つの原作にアメリカのリアルな政治状況やホワイトハウス事情を反映させてアレンジ。迫真のドラマに仕立てた。
第2シーズンでは、人気女優ジョディ・フォスターや、クレア役のロビン・ライトが監督したエピソードも話題の的に。
第5シーズンの製作も決まり、まだまだ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』から目が離せない。