Interviewインタビュー

主演

Bryan Cranstonブライアン・クランストン

Bryan Cranston
Q :「ブレイキング・バッド」をスタートした時は、これほどの人気ドラマになると思っていましたか?
思っていないよ。四半世紀前に、そんなものは諦めたんだ。何がうけるかうけないか予測するなんて、新人がやる愚かなことさ。エネルギーのムダ遣いだ。自分の仕事に集中して全力を尽くすしかない。視聴者の反応が得られて、それが10話以上も続くなんて相当運がよくなければないことだ。それが6年続いているんだよ。
Q :「ブレイキング・バッド」の世界的な成功をどのように説明しますか?
人の心に響くのは正直さだと思う。僕らは、1人の男の決意の物語を描き出している。ウォルター・ホワイトは彼自身がガンみたいな男だ。周囲の人間を感染させ、妻のスカイラーまで自分のモラルを試されることになる。彼女は自分に負けて罪を犯してしまうんだ。ソウル・グッドマンとジェシー・ピンクマン、ガス・フリングとマイク・エルマントラウトといった人々は間違いなくウォルターが肉体的、もしくは精神的な危険に陥れて感染させた人たちだ。それを正直に演じて、世界で放送し、視聴者に判断してもらえばいい。視聴者は教えてくれる。このドラマには国際的なフィーリングがあるから成功したのだと思う。単なるアメリカ人の視点ではなく、普遍的なんだ。人間が考え、行動し、感じる物語だよ。人間にはよい面もあれば悪い面もある。
これまでのテレビドラマの登場人物は黒か白かで描かれていたけれども、そんな生き方をしている人はいない。人を殺した男が、その足で妻の元へ行き、愛し合いたいと心から願う。これは複雑だ。でも、それが真実でもある。僕らが届けたいと思うのはそういう物語だ。それが心に響くかは見る人しだいだと思う。
Q : このドラマがあなたのキャリアに与えた影響は大きかったですか?
すべてが一気に爆発したような感じだったので圧倒されているよ。最初はこの役柄や番組の規模に魅力を感じた。そんな目の前のことしか考えていなかったんだ。ヒットするかしないかなんていう事は視野になかったし、気にもしていなかった。視聴者の反応がいいという話を聞いて、よかったと思った。もう少し演じることができるということだからね。でも、そんなことばかりを気にしてはいられない。このキャラクターとドラマは物事の本質に迫っている。それが一般の視聴者やエンターテインメント業界の人々の心に響いたんだ。僕と仕事がしたいと言う人たちに会うとうれしいし、どうなるのだろうとワクワクする。今は自分で慎重に役を選べて、自分がどうなりたいのかを決めることができるんだからね。
Q : もちろん、このドラマはヴィンス・ギリガンや他の脚本家たちの力が大きいと思いますが、あなたはずっとウォルター・ホワイトを演じてきました。ウォルターという役を演じた中で、誇りに感じていることはありますか?
白いピチピチの下着を格好よく着こなしたことだね。このドラマで一番頑張ったのはあれだと思うよ。80代の女性には喜んでもらえただろうね。
いろんな人との共同作業なので、自分の殻の中に閉じこもっていたら仕事はできない。俳優は台本から役を理解してそれを吸収しなければならない。台本を読み終えて役になりきる頃には、目いっぱい水を吸ったスポンジみたいになっているんだ。そしてスポンジと同じで、それを絞り出さなければならない。この役はそんな感じがしたよ。自分が吸い込んだものに自分を乗っ取られた感じだった。役になりきって考えているんだ。どんな歩き方をするべきか、どんな外見であるべきか、どんな体重であるべきかといったことを、ヴィンスに会う前から夢想していた。すべてヴィンスの書いたものが誘発したことだ。その後、一緒に働き始めて、ヴィンスや脚本スタッフにいろんなものを見せたんだ。ぼくが何かを演技して見せると、彼らもこの役に対する新しいアイデアを思いつく。でも、そういうことがフレキシブルにできるような風通しのよさは必要だね。
Q : 6年もウォルターを演じていても、まだ難しいものですか?
もちろんだよ。ウォルター・ホワイトと彼の人生について考えてごらん。彼が休むことなんてないんだよ!彼がのんびりと座って、新聞を読みながらコーヒーを飲むなんてことはない。彼は自分の命のために戦っているんだ。このドラマはウォルターの人生の最も濃密な2年間 を描いたものだ。ひどいこともあれば、そうでもないこともある。ウォルターにとって何にも代えがたい出来事もある。男としてはパワフルでエキサイティングな2年間だ。他の人間を縮み上がらせることができるのだから、かなりパワフルだよね。それが男を酔わせるんだ。彼は初めて大金を持つ。人から尊敬されて恐れられる。人はそういうことに弱いんだ。それがウォルターのエゴをくすぐり、彼の違った一面を引き出した。でも、リラックスする暇なんてなかったし、したいとも思わなかった。
Q : 役のストレスをどうやって解消するのですか?
自分なりのやり方があった。1話を撮影するのに普通は8日間かかるし、1日に少なくとも13時間は撮影する。映画やテレビの仕事は細かいんだ。毎日、少しずついろんなことをやって、それを最後につなぎ合わせる。みんなが画面上で目にするのはある出来事の一番衝撃的で重い部分だけれども、それを撮影するには、長い時間がかかっているんだ。僕は割り切ってやっている。強烈なシーンの撮影がある時は、外部との接触を断つ。何も考えない。トレーラーの中で昼寝をする。妻と話をしたり、演技のことを考えないで済むようなことをしたりする。そして、そのシーンの撮影が近づいてきたら、その時に向けて気持ちを盛り上げていくんだ。13時間もその状態をキープするのは無理だ。疲れてしまうよ。だからタイミングを計るのが重要だ。自分の順番をちゃんと把握していないとダメなんだ。そしてその時が来たら、一気に吐き出せるような状態まで持っていかなければならない。でも、それは何年も現場で失敗しながら経験を積んで初めて身につくことなんだよ。
Q : シリーズ全体の中で、一番好きなシーンはどれですか?
今、思いつくのは、ジェシーのガールフレンドのジェーンが自分の吐いたものでのどを詰まらせるシーンだ。あのシーンでは、想像していた通りに、自分の中をいろんな感情が駆け巡った。正義と悪の間で揺れ動き葛藤する人間を演じたかったんだ。助けるのか、助けないのか。この女の子はジェシーを殺そうとしていた、でもまだ彼女は子供だ。でも彼女は自分を脅してきた。
あのシーンには2つの異なるリズムを取り入れたかった。1つは、息絶えようとしている人間を目前にして感じる恐怖感と、自分に気にするなと言い聞かせる時の気持ち。もう1つはウォルターが、これから何をしよう、どうやって対処しよう、誰に電話しようと考えるところだ。彼が頭を巡らせているのが分かる。ぜいたくだね。自分専用の遊園地で好きな時に好きなものに乗れるのと一緒だ。すばらしいよ。
Q : ウォルターとの共通点はありますか?
同じホモサピエンスだ。冗談だよ。家族に対する気持ちは共感できるね。彼にとって家族はすごく重要な存在だ。僕にとってもそれは同じだよ。ウォルターは2年間しか生きられないという、大変なジレンマに直面している。それまでは、彼は狭い世界に生きていた。落ち込んでいて、運をつかむこともできない。そんな彼に共感できる人は多いと思う。あの時、違う道を進む決意をしていたらどうなっていたのだろう、とね。彼はそれで落ち込んでいるのだけれども、そのまま諦めて、病気に負けたくはないんだ。自分の妻に病床の自分の下の世話をさせたり、よだれを拭かせたりしたくない。アメリカの医療保険制度がよくないからといって、家族に貧乏をさせたくないんだ。男は誰しもそういうプライドを生まれながらに持っていると思う。それがあだになることも多いけれども、男にはそういう気持ちがある。だからウォルターは、家族のために何かをしたい、そして、自分の運命を少しでも変えたいと思う。自分が死ぬ前に家族のために少しでもお金が残せれば、と願うんだ。このシリーズの最初で彼が決意するベースにあるのはそれだけなんだよ。
Q : どんな人生経験が、この役を正確に演じる上で役に立ったと思いますか?
本当に正直な人間であれば、自分の性格や人柄の暗い一面も受け入れなければいけない。誰しもフィルターをかけた自分しか人には見せていない。散々な1日でも近所の人に会えば笑顔で手を振って、自分をアピールする。それが社会通念だからだ。でも自分1人になると、落ち込んだり、怒ったり、恨んだりする。それが人間だ。男でも女でも同じだよ。僕は俳優だから、その部分を人に見せるのが仕事だ。だから自分の人間らしい嫌な部分を表現することができる。勇気を持って愛していると伝えたり、本当に怒っているとか傷ついている自分を見せることができたりしたら、それは自分が彼らの仲間だというサインになる。後ろ指を指されるのではなく、勇気を出したことで好意を持ってもらえる。自分をさらけ出す勇気を持てば、相手にも受け入れてもらえることに気づくはずだ。あざ笑う人はいない。社会学的にも面白いことだと思うし、僕はその部分を普通の人よりも自由に人に見せることができる。「自分もそう思ったことがある」と、見ている人に伝えることができる。そのレベルで人とつながることが僕の仕事なんだ。
GQ誌 の取材で、数年前に自分の彼女を殺そうと思ったことがあると言ったことがある。 彼女はドラッグで頭が変になっていて、別れるならば殺すと僕を脅したんだ。彼女に何をされるかと思うと恐ろしかったよ。彼女は頭がよくて問題を抱えていたからね。彼女がすごくダークなことができる人だというのも知っていた。何が起きるか分からないと思った。その時に彼女を殺す自分を想像したんだ。ふと、そんなことを考える自分にショックを感じて、身震いして警察に電話したんだ。でも、考えたのは事実だよ。ある程度の年齢がいった正直な人ならば、誰かを殺してやりたいと思ったことがあるのではないのかと思う。僕はそういう気持ちで俳優という仕事をしているんだ。
Q : あなたは現場のムードを明るくしようとしているという話を聞きました。
どうしても暗くなってしまうのでね。16時間もぶっ通しで仕事をしている時にそれを感じると、空気を変えないとやっていられないんだ。だからイタズラをする。砂糖みたいによく効くよ。みんなが目を覚ます。小道具を本来の使用用途以外で使うと現場の雰囲気を明るくしてくれるんだよ。