Interviewインタビュー

製作総指揮・企画

Vince Gilliganヴィンス・ギリガン

Vince Gilligan
Q : なぜ『ブレイキング・バッド』を思いついたのですか?
自分と観客を楽しませることや、独創的なアイデアを考えることしか頭になかったが、今思い返すと、中年の危機について考えていたんだと思う。自分も40歳になる直前で、自分にとっての中年の危機とはどんなものだろうかと自問自答していた。そして、中年の最悪の危機に直面している男という発想から、このドラマのアイデアを思いついたんだ。 もちろん、ウォルターが自分はガンで死ぬのだと知った瞬間に、それは死に対する危機感に転化する。
Q : この作品には、『X-ファイル』やその制作現場から学んだことが活かされていますか?
僕のテレビドラマに関する知識は、すべてTVシリーズ『X-ファイル』の7年間で学んだことなんだ。アメリカで、たまに、テレビの経験がない若手作家がドラマの脚本を書く仕事を手に入れたという記事を読むと、ちょっとかわいそうだなと思う。オオカミの群れに放り込まれるのと一緒だからね。下積みの経験がないのに番組を任されたら大変だ。あの経験をしていないと、もっと大変な思いをすることになるんだ。だから、『X-ファイル』の7年間は僕にとってかけがえのない経験だった。ストーリーの始め方、監督の仕方、細かな点まで気を配らなければいけないことなど、プロデューサーという仕事や番組作りについて多くを学ぶことができた。ドラマを制作していると、ドレスの色やロケ現場の選択といった細かなことから、1話にどの程度の音楽を使うかといったことまで、次から次へと問題が出てくる。それを自分の中で順位づけて、より重要な問題から考えていかなければならないんだ。
Q : ウォルター・ホワイトについて教えて下さい。
認めるのは嫌だけど、自分が少しベースになっているのだと思う。彼は退屈な、どこにでもいるようなまじめな男だったのだけれども、どんどん、僕とはかけ離れた男になっていった。最初は、彼は正しく生きることだけを考えながら、人生を夢遊病者のように生きていた。モラルに反することはなかったけれど、服従する必要性も感じていなかった。第1話で彼は悪の道へ走ることを決意し、その後は決して後ろを振り返らない。彼は次から次へと問題を起こして、どんどん、以前の自分から離れていくんだ。どんどん僕ではなくなっていくのだけれど、まだ僕に似たところはいくらか残っているんだよ(笑)。
Q : これは『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』と同じような家族の物語だと思うのですがあなたもそう思いますか?
とてもいい比較だね。僕にとっては、『ゴッドファーザー』と『ゴッドファーザーPARTII』がインスピレーションの源なんだ。『ゴッドファーザー』は家族に執着した映画だ。どんなことを犠牲にしても家族を守り抜こうとする男の物語だが、家族を守るためにやったことが、家族を壊してしまう。『ブレイキング・バッド』も、家族や、ウォルターの“一家の大黒柱”という考え方が中心にある物語だ。でもある時点から、視聴者は彼は本当に家族のためにそれをやっているのだろうかと疑問を感じ始める。僕も、家族のためよりも自分の権力拡大のためになってきているのではと思うが、彼がどう変化したのか、いつから変化したのかは見る人に委ねるよ。