新政権誕生の立役者に聞く(ボー・ウィリモン脚本家インタビュー)

Q:このドラマ制作に関わるようになったきっかけは?
A:3年ほど前に、デヴィッド・フィンチャーからハウス・オブ・カードの仕事に興味はないかと声をかけてもらった。BBCのオリジナル版は観ていなかったので、いい言い訳が出来たと思って観たらすごく気に入ったんだ。でも、正直に言って、これを書くのは簡単だった。以前からデヴィッドの大ファンだったからね。
Q:フランシスという登場人物はどんな人間ですか?
A:権力そのものを欲することに、すごく正直な人間なんだ。それを真っ正面から言ってくるような男だ。最後に、その手段が正当化されるかどうかは、観客が決めることだ。
Q:明らかに悪者なのに、なぜ私たちはフランシスに惹かれるのでしょうか?
A:リチャード三世、マクベス、ハムレットなど、シェイクスピアの有名な悪役たちの全員が、我々をそそる何かを持っていると、オーソン・ウェルズが言っていた。ひとりの悪役を通して、ぼくらは自分の内側に潜んでいる、表には出さない自分の一面に触れることができるんだ。フランシスはルールを守らない人間だ。彼を通して、ぼくらは自分の中に息を潜めているかもしれない、執念深くて不誠実な一面を見ることができる。自分の願いが叶うような要素がそこにはある。全ての素晴らしいドラマが照らし出そうとしてきた、人間の持つ根源的な暗い一面に彼が光を当ててくれるんだ。ただの善人を見たい人なんていない。いろんな顔を持つ悪役を演じて名を成してきたケヴィン・スペイシーにそれを演じさせて初めて、最高のドラマと最高のエンターテイメントが出来上がるんだ。
Q:フランシスは実在の政治家をベースにしているのですか?
A:違うよ。ぼくはニュースは観るけれども、特に誰かをベースにしているわけじゃない。フランシスには、人に「あの出来事を思い出させる」と思わせるようないろんな顔があるけれども、何かを直接、手本にしているわけじゃないんだ。実在の政治家をベースにしているのではなく、どこにでもいるような人間をベースにしているんだよ。
Q:ケヴィンと一緒に仕事をするのはどうでしたか?
A:楽しかったよ。彼の仕事のやり方はすごいよ。猛烈に働くんだ。160日間の撮影のほとんど毎日いたね。生まれながらの才能を持った、本当のリーダーだね。そういうリーダーシップを発揮するスターがいると思うと、周りの皆が一生懸命に働くんだ。彼のダークなユーモアのセンスも素晴らしい。皆を笑わせていたよ。セットで一日16時間も働く撮影現場ではそれが大切なんだ。ケヴィンみたいなイタズラ好きがいると、現場が明るくなって、1週間に100時間も働いていても笑顔になれるんだよ。彼がいると皆が元気になれるんだ。
Q:あなたは幅広い政治の知識を持っていますが、どうしてですか?
A:これまでに何度も政治運動に関わったからだ。21歳の時に上院議員の選挙運動に関わってから、2回の大統領選挙に関わった。ほんの下っ端だったけど、素晴らしい経験だったよ。
Q:選挙運動に関わるようになったきっかけは?
A:他にやることがなかったんだよ!大学生で、ドイツ語ができなくてね。で、親友のジェイ・カーソンが政治運動を手伝ってくれと言うのに、すぐに、いいよと返事をしたんだ。彼のことは「スーパー・チューズデー」にも書いたよ。そうしたら、すごく気に入ってしまったんだ。あの年齢だから、自分が世界を変えられると思ったんだよ。ああいう選挙に関わっている人の年齢の中央値は24なんだよ。有力者を選挙で勝たせているのは若者なんだ。選挙活動は魅力的で中毒になるよ。負けると胸が張り裂けるようだけれども、勝つとあれほどの興奮は他にはないね。
Q:リサーチのために昔の政治の知り合いに連絡しましたか?
A:したよ。ハウス・オブ・カードの制作の最中は、何人もの政府の人と話をして、実際に起きた出来事かとか、起きそうな出来事かとか、全ての信憑性を確認した。時々、極端な話も出てくるけれども、どれもが実際に起きてもおかしくないような話なんだ。
Q:政治に対してはシニカルですか?
A:同じ質問をする人が多いのだけれども、ぼくほど楽観的に捉えている人はいないと思うよ。ぼくは政治を信じているんだ。膠着状態になってしまうこともあるけれど、これ以上の方法はない。政治に対する見方はシニカルじゃないよ。ぼくは現実的に捉えている。現実的に考えない人も多いけどね。ぼくらは政治家にモラルの砦であることを期待する。聖人でいて欲しいくせに、やることはやって欲しいんだ。でも、それをやるには、兵士を戦場に送るとか、モラル的にはぞっとするような決断をしなければならないこともある。マティーニのグラスの中でも、その2つの期待感はうまく混ざり合わない。政治家は偽善的だと責めるけれど、そうあることを要求しているのは、ぼくらなんだ。
Q:ザ・ホワイトハウスなど、影響を受けたアメリカの政治テレビドラマはありますか?
A:ない。ザ・ホワイトハウスは大好きだけどね。最高のテレビ番組だと思うよ。政治ドラマという範疇を越えてね。視聴者のことを真剣に考えた賢いTV番組だったと思う。良い人々が良いことをしようとする、高尚なファンタジーだった。でも、ぼくらがやっているのは、それとは180度異なる。全く別のアングルから、この物語に取り組んだんだ。
Q:もっと教えて下さい。
A:テレビはすごく洗練されて、もはや高尚な芸術とも言えるものになった。そもそも、テレビは大衆エンターテイメントと言われるけれども、デヴィッド・フィンチャーやケヴィン・スペイシーやロビン・ライトといった優れたアーティストたちが、複雑でリスキーな物語を伝えるチャンスがある場所としてテレビで仕事をしているんだ。ハウス・オブ・カードでは複雑な人物像を作り上げて、視聴者が驚くような人間の一面を探る。フランシスとクレアは反社会的っぽく見えるかもしれないけれども、彼らはそれだけではないんだ。24話を通して、彼らの全てが明らかになっていく。彼らはいろんな顔を持つ人間なんだ。人間は変化し続けるということを見せている。なぜ、その登場人物がそういう人間になったのか、という具体的な答えは提供しないようにしている。今、どんな人間なのかを見せた方がずっとエキサイティングだからね。
Q:ネットフリックスで配信するメリットは?
A:多くのテレビ番組が、続きが気になるような浅はかな場面を作ったりして、生き残りに苦労している。でも、ぼくらの場合は最初から26時間が保証されていたお陰で、役作りや複雑な物語作りに力を注ぐ事ができた。それは素晴らしい経験だった。ネットフリックスは最高のパートナーで、ドラマの制作において、これまで経験したことがないほどの自由を与えてくれた。彼らは僕たちを信じてくれたんだ。「ぼくらが世界に届けるから、皆に伝えたい物語をつくってくれ」と言ってくれたんだ。 彼らにせかされたことは一度もない。ぼくらの大胆な決断も受け入れてくれた。
Q:テレビとインターネットの間の壁はなくなると思いますか?
A:なくなると思う。テレビとインターネットの差は5年以内になくなるだろう。全てがストリーム配信になると思うよ。ネットフリックスは好きな場所で好きな時に視聴することができる。視聴者の思いのままだから、これまでよりも豊かな鑑賞体験ができるんだ。