マルチバースって、そもそもどういうものなんでしょう?
これは、説明がちょっと難しくて。僕らの業界でもインフレーションとかビッグバンとかいうものがあるのですが、人によって違うものを指していることも多いんですよね。簡単に言うと、僕らが宇宙だと思っているもの以外に、違うユニバースがあるということです。
何が人によって違ったり、理論によって違うかというと、一つはヒストリーだけが違うユニバースを考える。例えば第二次世界大戦で日本が勝っちゃった世界とか、例えば僕が昨日死んでしまった世界とか。そういうヒストリーが違う世界があるっていうこと。
さらには、素粒子の法則とかまでも違うユニバースがあるという考え。銀河もないし、電子も原子もないし、本当に根本から全然違うものまでもある。このように「別の宇宙とは、どんな宇宙なのか」というのと、それらが「どういうふうに存在するのか」というふたつの軸でバリエーションがあります。ここのところが人によって違うんですね。
ただ、全部に共通しているのは、僕らが全宇宙だと思っていたものは、実は全宇宙ではないということ。ユニ(1つ)ではなく、マルチ(複数)ある。それが、どのように具体的に起こっているかっていうのは、結構バリエーションがある、という話ですね。
マルチバース理論はすごく多岐にわたっているとは思うのですが、どのくらいから提唱されていたのでしょう?
具体的なサイエンスになってきたのは、おそらく1970、80年代でしょうね。でもメジャーではなかった。「こういう可能性もある」と言われ始めたのが、多分その辺りですね。
まず、そこに至るまでに「宇宙が膨張している」という考えがあります。それがめちゃくちゃ膨張しちゃうと、僕らとつながっていないくらい、すごい遠い領域というのができてしまう。そうすると、そこがここと一緒だっていう証拠はどこにあるんだということで、全然違う世界もあるんじゃないか、という考えが生まれてきました。それがある程度の証拠とともに明らかになり始めたのが、1998年のことです。
約20年前ですね。
はい。実は僕らの宇宙は膨張していて、しかもそれが加速しているんですよ。本来、物質の間にはたらく重力は引力なので、膨張はかならず減速するはずなんです。ところが、加速していることが観測されてしまった。つまり「宇宙は加速膨張している」ことが分かってしまった。それで、「なぜ?」と考えたときに、70~80年代のマルチバース理論を考えると腑に落ちるぞと。
1987年にノーベル賞受賞者のスティーブン・ワインバーグがマルチバースについて既に提唱しているんですが、それによると宇宙が加速膨張する可能性があることが分かる。ただその時点ではこの仕事はマイナーで、みんな注目していなかった。でも、10年後に実際に加速膨張が観測されて、そこで多くの人が「加速膨張は、マルチバースを意味するんだ」と理解したんです。
アメコミの世界でマルチバースが出てきたのは、70年代頃と聞いたことがあります。描かれ方も変わってきたのでしょうか。
僕自身は70年代のコミックなどに詳しくはないのですが、平行宇宙みたいな意味では、創造の中にサイエンスの裏付けが弱くてよければ、多分あったと思うんです。やっぱり、魅力的じゃないですか。自分がいない宇宙とか、恋人がいなかった宇宙、いた宇宙って。マルチバースという言葉はないんだけど、創作としては非常に刺激されるし、クリエイターの人たちは思いつくはず。
そこに、本当っぽいんだよっていうことが付け加わってきたような感じじゃないでしょうか。
なるほど、科学的根拠がついてきた。
そうですね。もちろん、面白くするために誇張はしています。例えば『スタートレック』でワームホールで遠くまで行きます、という描写がありますが、科学的には入ることはできても多分別の出口から出ることはできない。でも、ワームホール自体は存在する。滅茶苦茶なことを言っているわけじゃなくて、ちょっと誇張してストーリーに当てはめていくんですよね。
例えば、パラレルユニバース同士が干渉する確率って、実はものすごく低い。一つの粒子が干渉する可能性が1%だとしたら、2つだとその2乗になるので、もっと低くなる。そして僕らの宇宙は無数の粒子で出来ている。だから、僕らの宇宙が別の宇宙の影響を受けたり影響を与えたりする確率は、ほとんどないんですよ。でも、それだとストーリーにならないから、そこだけを膨らませて、主人公がどこか別のワールドに行って帰ってくるとか、そういった部分を創作している。
ただ、パラレルワールドとかマルチバースっていう存在自体は、よりリアリティを持って描けるような時代になってきたのではないでしょうか。実際に、世界はそうなっていると思っているサイエンティストは増えてきているので。
では、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はどのような物語になると予想されていますか?
予告編を見た感じはパラレルユニバースだと思います。例えば、ピーターがスパイダーマンだとバレちゃっている世界。もう1つは、バレていない世界。そこにドクター・ストレンジが干渉して、バレていない世界を創ろうとする。でも、そうすると多分そっちは、バレた世界より悪いこともある。ピーターは行ったり来たりできるようになるんだけど、最後にはどちらかを選ばないと世界がグチャグチャになっちゃって、両方消えたり大変なことになる。そんな感じになるんじゃないかと思っています。
おおー、具体的かつ面白そうです。
きっと、基本的には「バレている/バレていない」のヒストリーだけが違う世界で、物理法則だったりそのほかのことは同じなんだと思います。でも本当にそれだけだったら、絶対にバレていない世界を選びますというだけで終わっちゃうはずですよね。
確かに。
ですので、おそらく映画的には、バレていない世界の方が都合の悪いこともあって、どっちかを選ぶ必要性が出てくる。選ばないと両方がなくなるんだ、などという設定になっていて、そこでドラマが起こるのではないかなと思いました。
非常に面白いです。「大いなる力には大いなる責任が伴う」という名ゼリフもそうですが、「選択」は『スパイダーマン』シリーズのテーマでもあるので、そういった意味でも大いにありえそうです。
選択自体、人間のテーマでもありますよね。実際、僕たちが生きている世界も、選択によって分岐していっている。自分の意志で勝手に行ったり来たりはできないですが、実際には分かれていますよね。
そこにフィクションの世界では、「行き来できる」という設定を足すことで、テーマを落とし込める構造にしている。リアルではないけど、リアリティが増す。それで僕は良いと思うんです。たとえば「戦国の世に女子高生がタイムスリップした」というような設定では、実際に存在する「戦国時代」「女子高生」をフィクションでつないでいるもの。サイエンスは、物語を面白くする“味付け”だと思っています。
宇宙のことをユニバースと言いますよね。「ユニ」というのは、1つという意味なんです。これに対して、「マルチ」は、たくさんあるということ。宇宙は1つじゃないよ、たくさんあるよということを表す言葉がマルチバースなんです。
なるほど……!
皆さん、ビッグバンによって、宇宙は誕生したと教わっているかと思います。これが「宇宙論」。ただ、研究によって、ビッグバンのちょっと先に、「インフレーション宇宙論」が提唱された。これは、宇宙がとてつもない速さで膨張して。その後にビッグバンが起こったという初期段階のことです。
すると今度は、宇宙がどんどん膨張していく、じゃあいつまで?という話になる。しかも、最近になって加速度的に膨張しているっていうことも分かってきた。この原因は、まだ分からないのですが、1つの考え方として「永遠に膨張するんじゃなくて、ある時止まる」という考え方があるんです。
膨張が止まったら、どうなるんでしょう?
元々、「定常宇宙論」というものがありますが、これは「もし膨張が止まったら、次の瞬間、収縮に転じるんじゃないか」という考え方なんです。どんどん宇宙が小さくなって、最終的にはビッグバンの反対、ビッグクランチになると。つまり、圧縮です。
となると、「どんどん小さくなった後はどうなる?」という話もあるわけです。今度は逆にまた膨張に転じる。ある所で、またビッグバンが起こる。そしてまたある時、止まって収縮する。つまり宇宙というのは、ひょっとしたらビッグバンとビッグクランチを繰り返しているのかもしれない。日本では、あまり紹介されていないんですが、これをビッグバウンス理論といいます。
収縮と膨張を繰り返しているんですね。
しかも、ビッグバウンス理論は「だんだん宇宙は大きくなっている」という考え方でもあるんです。収縮と膨張の幅が、どんどん大きくなっているんですね。となると、いま現在が「何番目のビッグバンによるものなのか?」という疑問が出てきますよね。
もう1つ、「じゃあ、宇宙って最初、どこから出てきた?」もありますよね。いま現在の宇宙が存在する以前に、別の宇宙があった、つまり宇宙から宇宙が生まれてきたという考え方が、インフレーション宇宙論から発展した「ベビーユニバース」というものです。親の宇宙から子供の宇宙が生まれてきたという考え方ですね。
つまり、宇宙というのは1つではなくて、たくさんある。これを「多元宇宙論」といいます。この多元宇宙論にも、結構バージョンというのがあって、例えば確率の問題で、右に行くのか左に行くのかで未来が異なるわけです。この選択によって、今の宇宙がある。右に行った方と左に行った方の両方の宇宙が、実は存在する。これが、いわゆる平行宇宙。パラレルワールドですね。いわゆる分岐した所から別々の宇宙が生まれてきたという考え方です。
パラレルワールドは日本でもメジャーですよね!
はい。多元宇宙論(マルチバース)にも色々な考え方があって、代表的なものだとパラレルワールド(並行宇宙)的なものと、どんどん子どもを産んでいくベビーユニバース的なものがある。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がどのような意味で「マルチバース」という言葉を使っているかは予告編だけではわかりませんが、恐らく同じような世界があって、行き来するパラレルワールドに近いんじゃないかなという印象は受けました。
非常にわかりやすい解説、ありがとうございます! ちなみに「ムー」では、2017年にマルチバースの特集を組んだとお聞きしました。当時の反響は、いかがでしたか?
結構大きかったですね。結構、怪しいテーマを扱っているんですけれども(笑)、最先端の宇宙論だとか科学技術っていうのは、完全にオカルトっぽいんですよね。本当に魔術というか、不思議な世界。だから、どの読者の方に対しても、最先端の科学のことをただ紹介するだけで非常に謎と不思議・ある種のロマンを感じていただけたと思います。年に1、2回は、こういった純粋な科学寄りの技術を記事として扱っています。
宇宙論も流行り廃りがあるんです。例えば、異なる宇宙を理解するにあたって、「超ひも理論」(スーパーストリングセオリー)というものがあるんですよ。これは、小さい素粒子は実は粒じゃなくて、ひもでできているという考えです。
ひも、ですか?
はい。そう考えると、この宇宙は11次元ある。しかも、ひもで表せる粒子は、1つの膜にくっついている。これが、ひも理論から発展した「M理論」です。このM理論から行くと、この宇宙は膜であると。しかも、膜がたくさんある。その接触した時に、ビッグバンが起こる。
非常に抽象概念というか、数学的な概念になってしまうんですが、「超ひも理論」や「M理論」というのも、結構流行った時期があります。さらに、平行宇宙論は、もっと昔からタイムトラベルなどを説明するために使われていました。
また、宇宙の膨張と縮小が、1つの鼓動という考え方もあるんですよ。心臓の鼓動ですね。例えば動物。ネズミの心拍数って、すごく速いんです。でも象とかになると、非常に遅い。そう考えていくと、生物って、みんなある種のリズムがある。そうした場合に、宇宙そのものは、ひょっとしたら生物じゃないかと。生命体じゃないの?っていう考え方なんです。
えぇ!?
よく「地球は1つの生命体だ」といいますが、それと同様に、宇宙そのものが、そもそも生命だという考え方です。そう考えると、生命体だから子どもを生むんですよ。
なるほど、それが「ベビーユニバース」の話につながるのですね。
そうそう。この宇宙が生命体であれば、子どもが自己複製して当然だろうという話なんですよね。
また、死後の世界についても多元宇宙論で解明できるという説があります。この空間そのものが実は1つではなくて、目の前の空間には、実はビルの1階2階3階のように、いくつもの空間が重なっているんだという説もあります。三次元のこの同じ空間が1つの領域を占有しているという考え方。これを「亜空間」といいます。
超常現象なんかを説明する時に、よく使う言葉ですが、仮に亜空間が存在して空間との行き来が可能になってくると、超常現象のほとんどは説明がつく。テレポーテーションも可能になるし、スプーン曲げもできるし幽霊だとか臨死体験とかそういったことも説明可能になってくる。
壮大なお話ですが、そもそもマルチバースって僕らが体験できるものなのでしょうか。
どうしても、この宇宙にいる以上なかなか難しいですよね。宇宙って無限ではなく有限なのですが、果てがない有限なんです。
宇宙の外には中々行くことはできないけれど、別次元としてパラレルワールドみたいな考え方もあれば、同じ空間を占有している別の宇宙があるという考え方もあって、ひょっとしたら行き来できるかもしれない。宇宙とつなげるトンネル「ポータル」が開くと、別の世界や、別の時代の宇宙と行き来ができるかもしれない、と言われていますね。そしてひょっとしたら、そういったマシーンがUFOなんじゃないかという説があります。
三上さんは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』においては、「行き来」が可能なパラレルワールド的なものという予想を立てているのでしょうか。
そうですね。予告を観た感じ、スパイダーマンの正体を知っているこの世界と知らない世界があるように感じました。ひょっとしたら、どこかで分岐した別の平行宇宙の話ではないかと。
見た目は、ほとんど同じなんです。原子が1個2個ちょっと動いただけで、別世界になっちゃいますから。そうすると、本当に近い宇宙っていうのは、そこに住んでいる人も、まったく同じ世界も存在しうるんですよね。そこに例えば行ったり帰ってきたりすると、言ってみればタイムトラベル的なことになる。ただ、向こうの方の世界に行くと、何かがちょっとだけ違うわけです。
そういった世界が交わったりするだけで、宇宙の法則としてパラドックスが起こってしまう。逆に言えば、それが起こらないような絶対的な法則があって、破ろうとすると宇宙が崩壊しちゃう。予告編の中にも、そういうシーンがありましたよね。
予告編の中では、ドクター・ストレンジが魔術を使ってそうしたルールを犯そうとするシーンがありましたね。
魔法、特に西洋魔術の考え方としては、聖書の世界なんです。聖書の世界で言う神様は、宇宙を作った存在。だから、魔術は神の御業を再現すること。
つまり、宇宙の法則は神が支配しているものであり、それを使いこなすことができれば、ある種神になれる。完全な神になるのは別にして、神のような力を手に入れれば、この宇宙も創造できる。それが多分、この映画の中で描かれている魔術なのではないでしょうか。神が宇宙だけじゃなくて、別の宇宙も作った。平行宇宙もできるように作ってみましたとか。そういった思想背景があるように思います。
マルチバースって、そもそもどういったものなんでしょう?
簡単に言うと、平行世界という日本語を使った方が分かりやすいと思うんですよね。要は、絶対交わることがないけれども、もし例えば江戸時代が、そのまま続いていたらっていう世界があったとして、我々は絶対見ることができないけれども、もしかしたらそういう時代があってそこが同時に流れているというようなものです。ただ、SFとか漫画だと、そこが交じり合う。独立していた平行世界が交わることを、マルチバースといいます。
例えばよしながふみさんの『大奥』という漫画がありますよね。あれは、パラレルワールドやマルチバースの1つと言ってよいと思います。徳川家光が歴史より早く亡くなって、女性が将軍になる。本当の歴史の中で、日本で女性が徳川将軍になることはないんですけれども、よしながさんが作った世界観では女性が将軍で、大奥が男性版になり、女性が支配している。
あの漫画の上手い所は、最終的に、また日本の本当の歴史に交わって、元に戻る所。もし、あのまま男性がほとんど亡くなる流行り病が治らなかったら、さらに別の平行世界が発生する。そのまま女性が例えば政治とかに関わり続ける世界が、そのまま続いたかもしれないので、もしかしたら近代化が違った形で行われたかもしれない。マルチバースは、色々な可能性の世界とも言えると思います。
なるほど……『大奥』もマルチバースだったのか……!
もうひとつは、『スパイダーマン:スパイダーバース』。あれはマルチバースを理解するのに本当に分かりやすい作品の1つだと思います。『ホワット・イフ...?』もそうですね。例えばキャプテン・アメリカがスティーブ・ロジャースじゃなくて、ペギー・カーターだったら?という前提で、別の世界・平行世界として動いていく。
元々、マーベルのコミックが、平行世界を取り入れたのが70年代の前半ころから。『ホワット・イフ...?』のコミックだと、スタン・リーが本当にスパイダーマンと一緒にいたらどうなっている?みたいな漫画も出たり、メリー・ジェーンがピーター・パーカーと結婚して、2人の間の子どもがスパイダーマンだったら、どんな世界になるのか、みたいなコミックがあったり。そういった作品がたくさん出てきました。
日本でマルチバース的な展開って何だろう?と考えたときに、ファンの二次創作もある種そうなのかな?と思いました。
その理解で合っていると思いますよ。ファンの方が、例えばこの2人が結婚しなかったけど結婚したらどうなったとか、色々と考えますよね。
あとは、ゲームの『スーパーロボット大戦』はマルチバースの集合体なんです。
スパロボ! それは盲点でした。
あれって、『ガンダム』とか『コードギアス』といったそれぞれのアニメの世界をマルチバースっぽくしちゃって、交わらないはずの主人公たちが一緒に戦う話ですよね。そういった意味では、『スパイダーマン:スパイダーバース』と構造は同じなんです。『スーパーロボット大戦』は今年30周年ですが、日本でマルチバースをずっとやってきたシリーズと言えますね。
ゲームだと、『MARVEL VS. CAPCOM』もそうかもしれませんね。
そうですね。あれも、マーベルの中ではマルチバースに認定されているはずです。もっと言うと、『Marvel's Spider-Man』シリーズもそうですよね。
お話を聞いて、日本にもマルチバースを題材にした作品がたくさんあるのだと発見になりました。
例えば、『ドラえもん』ののび太がジャイ子と結婚していたら?も1つの平行世界なんですよね。ジャイ子と結婚しないで、しずかちゃんと結婚するっていうのは、また別の世界で、2つの世界が平行で存在すると考えたら、ある種のマルチバースです。もちろんこれにはタイムトラベルの話やタイムパラドックスの話も絡んできて、『ドラえもん』の中では交わることがないのですが、藤子不二雄先生はそういったSF要素を巧みに扱っていますよね。
個人的には、『スパイダーマン:スパイダーバース』で日本国内にも一気にマルチバースという言葉が浸透した感覚でしたが、文化自体はずっと以前から根付いていたのですね。
そうですね。マルチバースという言葉を使う前は、パラレルワールドっていう言葉があって、ただパラレルワールドの場合は、交わらない平行世界をそのままやっていた。かたやマルチバースは、『スパイダーマン:スパイダーバース』みたいに交わっちゃうので、そこが真新しいのかなと思います。
MCUのフェーズ4のテーマが「マルチバース」と発表された際には、どう感じましたか?
予測の範囲内でした(笑)。ドクター・ストレンジが出てくるからには、マルチバースになるだろうなと思っていましたね。それこそ、次のドクター・ストレンジの映画は『ドクター・ストレンジ・イン・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』ですからね(笑)。
あと、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、ドクター・ストレンジは「サノスを倒せる1パターン」を導き出しますよね。あれもある種のマルチバースと言えますから。『ドクター・ストレンジ』の中でも、敵と戦う時に何回も繰り返すじゃないですか。あれもちょっとしたマルチバースですよね。
マルチバースのカギとなるキャラクターが、ドクター・ストレンジなのですね。その彼が、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場するということは……。
もうマルチバースですよね(笑)。予告編を観た限り、ドクター・オクトパスなどが出てきますし、エレクトロの登場も発表されているので、サム・ライミ監督版とマーク・ウェブ監督版が、ジョン・ワッツ監督版に合流するのかなと思います。そうすると、スパイダーマンはどうなんだろう?という期待値が上がるわけですよね。
トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが。
そうそう。もっとマニアックな話で言うと、日本の東映の『スパイダーマン』シリーズはどうなるんだろう?とかも気になってしまう。アニメも入れたら『スパイダーマン』って本当にたくさんの作品があるし、どのキャラクターが出てくるのか楽しみではありますね。
僕としては、トビー、アンドリュー、トム・ホランドの3人のスパイダーマンそろい踏みが観たい。もっと言うと、トム・ホランドの『スパイダーマン』は本作で終了らしいので、次のスパイダーマンとしてマイルズ・モラレスが登場して、4人で行動したら嬉しいですね。
そもそも、マルチバースって、どういうものでしょうか?
マルチバースっていうのは、1番分かりやすいのはパラレルワールド。多元宇宙、平行世界みたいなことなんです。
例えば、桃太郎の話で例えると、川から桃が流れてきますよね。そうすると、おばあさんが桃を拾って、桃太郎が生まれて鬼退治に行くっていうのが1つの流れ。でもここでもし、おばあさんが桃を拾わなかったら、桃太郎がいない世界になって鬼がいる世界っていうのが出てきてしまうわけですよね。だから、そうなった時に桃太郎がいて鬼を倒す世界と、桃太郎が生まれなくて鬼がいなかった世界っていうのが2つ存在するっていう考え方で、これが両方ともマルチバースの関係です。
さらにややこしいのは、桃太郎が鬼を退治する世界とはまったく別に、一寸法師が鬼を倒すというのもある。こういうのが大きく言うとマルチバースですね。いわば“たらればの数”だけ世界がある、ということです。
それを昔は主にSFで「パラレルワールド」という言い方をしていたんですが、コミックの世界で「マルチバース」という言い方を使うようになってきて、本や映画に派生していったように思います
MCUのフェーズ4のキーワードがマルチバースと発表された際は、どう感じましたか?
ついに来たかと思いましたね。
そもそも、コミックでマルチバースの考え方が出てきた経緯って、ファンに向けた意味合いが強かったと思います。
と、いうと?
時代ごとに作品をリセットしていかなきゃいけないっていう時に、前好きだったバージョンを否定されるのがファンは嫌なんです。だから、それはそれで、ちゃんと別世界の話なんですよって言うと、精神的に安定する。
多分これから先、新しいアイアンマンが出てきた時に、「ロバート・ダウニー・Jr.のアイアンマンが私は好きだった」という人は必ずいる。そこで、「別の世界」と言ってくれると、安心できるんです。マーベルは『007』みたいに役者を代えてつなげていくことをしないから、マルチバースという考え方は悪くないなと思います。
ファンに優しいシステムでもあるんですね。
そうですね。「アンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンが1番イケメンで好きだ」っていう人もいるし。そういう“前”を否定しない感じが、すごく大事なことだと思います。
『スパイダーマン』シリーズでいうと、トム・ホランドの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のラストで、「マルチバースじゃん!」と話題になりました。
なりましたよね。あれは衝撃的な展開ですよね。
ジェイムソン編集長が出てきたときはびっくりしたし、『モービウス』の予告編で、マイケル・キートンが出てきた時もそう。どういうふうにつじつまを合わせていくんだろうなって。
MCUのマルチバースもあれば、ソニーのマルチバースもありますよね。
そう。まずMCUのマルチバースの考え方って、色々な可能性のぶんだけ別れていくというものだと思います。『ホワット・イフ…?』でペギー・カーターが超人血清を受けちゃって、キャプテン・カーターが生まれる世界が流れていたり、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でロキは死んだはずだったのに、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時にタイムトラベルの中で、ニューヨークに逃げてきたから別のタイムラインが発生したり……。
今お話しいただいた『ホワット・イフ…?』もそうですが、『ワンダヴィジョン』や『ロキ』でマルチバースをにおわせ続けて、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でついに来るかといった持っていき方も、非常に上手いなと感じました。
おっしゃる通り、なかなかついていけない「マルチバース」という考え方を浸透させるために、徐々に慣らしていったところはありますよね。
対して、ソニーだとアカデミー賞をとったアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』がありますよね。スパイダーバースというのは、大雑把に言うと“スパイダーマンを起点としてマルチバースを表現した言い方”ですね。マイルズ・モラレスがいてピーター・パーカーが死んだ世界、ピーター・パーカーが生きている世界、といったように、別々のユニバースで存在しているイメージ。
『ヴェノム』の最後に、「別の世界では…」といって『スパイダーマン:スパイダーバース』の映像が挿入されましたよね。ここからも読み取れるように、ソニーの考えとしては平行世界としてのマルチバースなんですよね。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも、トビー・マグワイア版の『スパイダーマン』の敵や『アメイジング・スパイダーマン』の敵が出てきそうだし、時空を超えたら一緒になれる、という考え方ですよね。
夢がありますよね。
そうですね。日本でも、ファンの暗黙の了解だと思いますが、ゴジラもウルトラマンも仮面ライダーも、マルチバース的なところはありますよね。1つのコンテンツを長く続けると、そういう若干マルチバースとか、これは別の世界感ですみたいなことが発生してくる。
おっしゃる通り、コンテンツを成長させ続けていくためにも便利だし、時代にも合わせて変えていける自由度もありますね。
もう1つ、マルチバースが盛んになってきた理由の1つが、ダイバーシティ&インクルージョンだと思います。黒人のバージョンを入れたりとか、女性版を作りたいとか、LGBTQもそう。色々なバージョンを作っていきたいとなったときに、マルチバースが増えていくんですよね。『スパイダーマン:スパイダーバース』なんて、まさにそうでしたよね。
確かに……! ちなみにすぴさんは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はどういう展開になると思いますか?
予告を観た限りで言うと、ドクター・ストレンジがへまをやって、マルチバースがつながっちゃって他のバースにいた人たちが出てくるっていう所が予測ですが、あれだとあまりにも僕の敬愛するドクター・ストレンジがドジすぎるって思っちゃう(笑)
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』も、ミステリオは味方だとずっと言っていましたよね。まさか、ニック・フューリーが本物じゃなかったっていうのは想像していなかった。『スパイダーマン:ホームカミング』でいうと、自分の好きな子のお父さんがバルチャーだったとか、このシリーズって必ず大どんでん返しがあるので、あの予告は鵜呑みにはできないなと(笑)。
確かに、トム・ホランド版の『スパイダーマン』シリーズには、毎回騙されます(笑)。
ね(笑)。ただ、真実はどうあれ、僕はドック・オクの出てくるトビー・マグワイアの『スパイダーマン2』がすごく好きだったし、『アメイジング・スパイダーマン』の時に、ジェイミー・フォックスのエレクトロがすごく良かったのに、いまいち活躍しないで終わっちゃったので、また出てきてくれるっていうのはうれしいし、楽しみです。
世界中での予想合戦も凄いですよね。取り調べのシーンで「マット・マードック(デアデビル)が出てくるんじゃないか!?」というような期待の声もあったそうですね。
ファンの方の書き込みを見ていてすごいなと思ったのは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の予告に出てくるドック・オクのメガネが、『スパイダーマン2』で銀行強盗をやっている時のメガネと一緒だから、まだ悪い奴なんだとか……。すごく細かい所までファンの人は見ていて、なるほどと驚かされます。
ヴィラン的には、どれくらい登場するとお考えですか?
予告だとドック・オクが出てきて、エレクトロも出てきて。グリーン・ゴブリンに、最新の予告編だとサンドマンもリザードも確認できたので。これだけでもすごいですが、さらにもっとすごいのが出てくるかもです。皆さんが期待している“俺たち”の人とか(笑)
ただもう1つ、大どんでん返しで、ワンダ姉さんが最後に出てきて、大変なことになっちゃうとかもあるかもしれない。
なるほど、ドクター・ストレンジ以外にもMCUのキャラクターが出てくるかもしれない。
そうですね。『ドクター・ストレンジ・イン・マルチヴァース・オブ・マッドネス(原題)』に絶対つなげるんでしょうから、どうつながっていくんだろうなと思っています。
これは勝手な予想ですが、ポスト・クレジットでピーターが自分をふがいないと思ってシャドーボクシングか何かしていると、シャン・チーが出てきて、「俺がトレーニングしてやる」っていう凄まじいオチかもしれない(笑)。マーベルは本当に、何をやってくるのか観てみるまで分からない……。
観るまでは絶対予想できないサプライズが、いくつかあるだろうと。
と思いますね。『エターナルズ』やドラマの『ホークアイ』で『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』につながる伏線があるのかどうかとか、そういう所も楽しみではあります。
でも本当に凄いなと思うのは、マルチバースのアイデアもそうですが、ファンが見たいものは、ちゃんと見せてあげるというところ。そこは本当に素晴らしいですね。
マルチバースって、そもそもどういうものなんでしょう?
これは、説明がちょっと難しくて。僕らの業界でもインフレーションとかビッグバンとかいうものがあるのですが、人によって違うものを指していることも多いんですよね。簡単に言うと、僕らが宇宙だと思っているもの以外に、違うユニバースがあるということです。
何が人によって違ったり、理論によって違うかというと、一つはヒストリーだけが違うユニバースを考える。例えば第二次世界大戦で日本が勝っちゃった世界とか、例えば僕が昨日死んでしまった世界とか。そういうヒストリーが違う世界があるっていうこと。
さらには、素粒子の法則とかまでも違うユニバースがあるという考え。銀河もないし、電子も原子もないし、本当に根本から全然違うものまでもある。このように「別の宇宙とは、どんな宇宙なのか」というのと、それらが「どういうふうに存在するのか」というふたつの軸でバリエーションがあります。ここのところが人によって違うんですね。
ただ、全部に共通しているのは、僕らが全宇宙だと思っていたものは、実は全宇宙ではないということ。ユニ(1つ)ではなく、マルチ(複数)ある。それが、どのように具体的に起こっているかっていうのは、結構バリエーションがある、という話ですね。
マルチバース理論はすごく多岐にわたっているとは思うのですが、どのくらいから提唱されていたのでしょう?
具体的なサイエンスになってきたのは、おそらく1970、80年代でしょうね。でもメジャーではなかった。「こういう可能性もある」と言われ始めたのが、多分その辺りですね。
まず、そこに至るまでに「宇宙が膨張している」という考えがあります。それがめちゃくちゃ膨張しちゃうと、僕らとつながっていないくらい、すごい遠い領域というのができてしまう。そうすると、そこがここと一緒だっていう証拠はどこにあるんだということで、全然違う世界もあるんじゃないか、という考えが生まれてきました。それがある程度の証拠とともに明らかになり始めたのが、1998年のことです。
約20年前ですね。
はい。実は僕らの宇宙は膨張していて、しかもそれが加速しているんですよ。本来、物質の間にはたらく重力は引力なので、膨張はかならず減速するはずなんです。ところが、加速していることが観測されてしまった。つまり「宇宙は加速膨張している」ことが分かってしまった。それで、「なぜ?」と考えたときに、70~80年代のマルチバース理論を考えると腑に落ちるぞと。
1987年にノーベル賞受賞者のスティーブン・ワインバーグがマルチバースについて既に提唱しているんですが、それによると宇宙が加速膨張する可能性があることが分かる。ただその時点ではこの仕事はマイナーで、みんな注目していなかった。でも、10年後に実際に加速膨張が観測されて、そこで多くの人が「加速膨張は、マルチバースを意味するんだ」と理解したんです。
アメコミの世界でマルチバースが出てきたのは、70年代頃と聞いたことがあります。描かれ方も変わってきたのでしょうか。
僕自身は70年代のコミックなどに詳しくはないのですが、平行宇宙みたいな意味では、創造の中にサイエンスの裏付けが弱くてよければ、多分あったと思うんです。やっぱり、魅力的じゃないですか。自分がいない宇宙とか、恋人がいなかった宇宙、いた宇宙って。マルチバースという言葉はないんだけど、創作としては非常に刺激されるし、クリエイターの人たちは思いつくはず。
そこに、本当っぽいんだよっていうことが付け加わってきたような感じじゃないでしょうか。
なるほど、科学的根拠がついてきた。
そうですね。もちろん、面白くするために誇張はしています。例えば『スタートレック』でワームホールで遠くまで行きます、という描写がありますが、科学的には入ることはできても多分別の出口から出ることはできない。でも、ワームホール自体は存在する。滅茶苦茶なことを言っているわけじゃなくて、ちょっと誇張してストーリーに当てはめていくんですよね。
例えば、パラレルユニバース同士が干渉する確率って、実はものすごく低い。一つの粒子が干渉する可能性が1%だとしたら、2つだとその2乗になるので、もっと低くなる。そして僕らの宇宙は無数の粒子で出来ている。だから、僕らの宇宙が別の宇宙の影響を受けたり影響を与えたりする確率は、ほとんどないんですよ。でも、それだとストーリーにならないから、そこだけを膨らませて、主人公がどこか別のワールドに行って帰ってくるとか、そういった部分を創作している。
ただ、パラレルワールドとかマルチバースっていう存在自体は、よりリアリティを持って描けるような時代になってきたのではないでしょうか。実際に、世界はそうなっていると思っているサイエンティストは増えてきているので。
では、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はどのような物語になると予想されていますか?
予告編を見た感じはパラレルユニバースだと思います。例えば、ピーターがスパイダーマンだとバレちゃっている世界。もう1つは、バレていない世界。そこにドクター・ストレンジが干渉して、バレていない世界を創ろうとする。でも、そうすると多分そっちは、バレた世界より悪いこともある。ピーターは行ったり来たりできるようになるんだけど、最後にはどちらかを選ばないと世界がグチャグチャになっちゃって、両方消えたり大変なことになる。そんな感じになるんじゃないかと思っています。
おおー、具体的かつ面白そうです。
きっと、基本的には「バレている/バレていない」のヒストリーだけが違う世界で、物理法則だったりそのほかのことは同じなんだと思います。でも本当にそれだけだったら、絶対にバレていない世界を選びますというだけで終わっちゃうはずですよね。
確かに。
ですので、おそらく映画的には、バレていない世界の方が都合の悪いこともあって、どっちかを選ぶ必要性が出てくる。選ばないと両方がなくなるんだ、などという設定になっていて、そこでドラマが起こるのではないかなと思いました。
非常に面白いです。「大いなる力には大いなる責任が伴う」という名ゼリフもそうですが、「選択」は『スパイダーマン』シリーズのテーマでもあるので、そういった意味でも大いにありえそうです。
選択自体、人間のテーマでもありますよね。実際、僕たちが生きている世界も、選択によって分岐していっている。自分の意志で勝手に行ったり来たりはできないですが、実際には分かれていますよね。
そこにフィクションの世界では、「行き来できる」という設定を足すことで、テーマを落とし込める構造にしている。リアルではないけど、リアリティが増す。それで僕は良いと思うんです。たとえば「戦国の世に女子高生がタイムスリップした」というような設定では、実際に存在する「戦国時代」「女子高生」をフィクションでつないでいるもの。サイエンスは、物語を面白くする“味付け”だと思っています。
マルチバースって、そもそもどういうものなんでしょう?
宇宙のことをユニバースと言いますよね。「ユニ」というのは、1つという意味なんです。これに対して、「マルチ」は、たくさんあるということ。宇宙は1つじゃないよ、たくさんあるよということを表す言葉がマルチバースなんです。
なるほど……!
皆さん、ビッグバンによって、宇宙は誕生したと教わっているかと思います。これが「宇宙論」。ただ、研究によって、ビッグバンのちょっと先に、「インフレーション宇宙論」が提唱された。これは、宇宙がとてつもない速さで膨張して。その後にビッグバンが起こったという初期段階のことです。
すると今度は、宇宙がどんどん膨張していく、じゃあいつまで?という話になる。しかも、最近になって加速度的に膨張しているっていうことも分かってきた。この原因は、まだ分からないのですが、1つの考え方として「永遠に膨張するんじゃなくて、ある時止まる」という考え方があるんです。
膨張が止まったら、どうなるんでしょう?
元々、「定常宇宙論」というものがありますが、これは「もし膨張が止まったら、次の瞬間、収縮に転じるんじゃないか」という考え方なんです。どんどん宇宙が小さくなって、最終的にはビッグバンの反対、ビッグクランチになると。つまり、圧縮です。
となると、「どんどん小さくなった後はどうなる?」という話もあるわけです。今度は逆にまた膨張に転じる。ある所で、またビッグバンが起こる。そしてまたある時、止まって収縮する。つまり宇宙というのは、ひょっとしたらビッグバンとビッグクランチを繰り返しているのかもしれない。日本では、あまり紹介されていないんですが、これをビッグバウンス理論といいます。
収縮と膨張を繰り返しているんですね。
しかも、ビッグバウンス理論は「だんだん宇宙は大きくなっている」という考え方でもあるんです。収縮と膨張の幅が、どんどん大きくなっているんですね。となると、いま現在が「何番目のビッグバンによるものなのか?」という疑問が出てきますよね。
確かに。
もう1つ、「じゃあ、宇宙って最初、どこから出てきた?」もありますよね。いま現在の宇宙が存在する以前に、別の宇宙があった、つまり宇宙から宇宙が生まれてきたという考え方が、インフレーション宇宙論から発展した「ベビーユニバース」というものです。親の宇宙から子供の宇宙が生まれてきたという考え方ですね。
つまり、宇宙というのは1つではなくて、たくさんある。これを「多元宇宙論」といいます。この多元宇宙論にも、結構バージョンというのがあって、例えば確率の問題で、右に行くのか左に行くのかで未来が異なるわけです。この選択によって、今の宇宙がある。右に行った方と左に行った方の両方の宇宙が、実は存在する。これが、いわゆる平行宇宙。パラレルワールドですね。いわゆる分岐した所から別々の宇宙が生まれてきたという考え方です。
パラレルワールドは日本でもメジャーですよね!
はい。多元宇宙論(マルチバース)にも色々な考え方があって、代表的なものだとパラレルワールド(並行宇宙)的なものと、どんどん子どもを産んでいくベビーユニバース的なものがある。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がどのような意味で「マルチバース」という言葉を使っているかは予告編だけではわかりませんが、恐らく同じような世界があって、行き来するパラレルワールドに近いんじゃないかなという印象は受けました。
非常にわかりやすい解説、ありがとうございます! ちなみに「ムー」では、2017年にマルチバースの特集を組んだとお聞きしました。当時の反響は、いかがでしたか?
結構大きかったですね。結構、怪しいテーマを扱っているんですけれども(笑)、最先端の宇宙論だとか科学技術っていうのは、完全にオカルトっぽいんですよね。本当に魔術というか、不思議な世界。だから、どの読者の方に対しても、最先端の科学のことをただ紹介するだけで非常に謎と不思議・ある種のロマンを感じていただけたと思います。年に1、2回は、こういった純粋な科学寄りの技術を記事として扱っています。
宇宙論も流行り廃りがあるんです。例えば、異なる宇宙を理解するにあたって、「超ひも理論」(スーパーストリングセオリー)というものがあるんですよ。これは、小さい素粒子は実は粒じゃなくて、ひもでできているという考えです。
ひも、ですか?
はい。そう考えると、この宇宙は11次元ある。しかも、ひもで表せる粒子は、1つの膜にくっついている。これが、ひも理論から発展した「M理論」です。このM理論から行くと、この宇宙は膜であると。しかも、膜がたくさんある。その接触した時に、ビッグバンが起こる。
非常に抽象概念というか、数学的な概念になってしまうんですが、「超ひも理論」や「M理論」というのも、結構流行った時期があります。さらに、平行宇宙論は、もっと昔からタイムトラベルなどを説明するために使われていました。
また、宇宙の膨張と縮小が、1つの鼓動という考え方もあるんですよ。心臓の鼓動ですね。例えば動物。ネズミの心拍数って、すごく速いんです。でも象とかになると、非常に遅い。そう考えていくと、生物って、みんなある種のリズムがある。そうした場合に、宇宙そのものは、ひょっとしたら生物じゃないかと。生命体じゃないの?っていう考え方なんです。
えぇ!?
よく「地球は1つの生命体だ」といいますが、それと同様に、宇宙そのものが、そもそも生命だという考え方です。そう考えると、生命体だから子どもを生むんですよ。
なるほど、それが「ベビーユニバース」の話につながるのですね。
そうそう。この宇宙が生命体であれば、子どもが自己複製して当然だろうという話なんですよね。
また、死後の世界についても多元宇宙論で解明できるという説があります。この空間そのものが実は1つではなくて、目の前の空間には、実はビルの1階2階3階のように、いくつもの空間が重なっているんだという説もあります。三次元のこの同じ空間が1つの領域を占有しているという考え方。これを「亜空間」といいます。
超常現象なんかを説明する時に、よく使う言葉ですが、仮に亜空間が存在して空間との行き来が可能になってくると、超常現象のほとんどは説明がつく。テレポーテーションも可能になるし、スプーン曲げもできるし幽霊だとか臨死体験とかそういったことも説明可能になってくる。
壮大なお話ですが、そもそもマルチバースって僕らが体験できるものなのでしょうか。
どうしても、この宇宙にいる以上なかなか難しいですよね。宇宙って無限ではなく有限なのですが、果てがない有限なんです。
宇宙の外には中々行くことはできないけれど、別次元としてパラレルワールドみたいな考え方もあれば、同じ空間を占有している別の宇宙があるという考え方もあって、ひょっとしたら行き来できるかもしれない。宇宙とつなげるトンネル「ポータル」が開くと、別の世界や、別の時代の宇宙と行き来ができるかもしれない、と言われていますね。そしてひょっとしたら、そういったマシーンがUFOなんじゃないかという説があります。
三上さんは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』においては、「行き来」が可能なパラレルワールド的なものという予想を立てているのでしょうか。
そうですね。予告を観た感じ、スパイダーマンの正体を知っているこの世界と知らない世界があるように感じました。ひょっとしたら、どこかで分岐した別の平行宇宙の話ではないかと。
見た目は、ほとんど同じなんです。原子が1個2個ちょっと動いただけで、別世界になっちゃいますから。そうすると、本当に近い宇宙っていうのは、そこに住んでいる人も、まったく同じ世界も存在しうるんですよね。そこに例えば行ったり帰ってきたりすると、言ってみればタイムトラベル的なことになる。ただ、向こうの方の世界に行くと、何かがちょっとだけ違うわけです。
そういった世界が交わったりするだけで、宇宙の法則としてパラドックスが起こってしまう。逆に言えば、それが起こらないような絶対的な法則があって、破ろうとすると宇宙が崩壊しちゃう。予告編の中にも、そういうシーンがありましたよね。
予告編の中では、ドクター・ストレンジが魔術を使ってそうしたルールを犯そうとするシーンがありましたね。
魔法、特に西洋魔術の考え方としては、聖書の世界なんです。聖書の世界で言う神様は、宇宙を作った存在。だから、魔術は神の御業を再現すること。
つまり、宇宙の法則は神が支配しているものであり、それを使いこなすことができれば、ある種神になれる。完全な神になるのは別にして、神のような力を手に入れれば、この宇宙も創造できる。それが多分、この映画の中で描かれている魔術なのではないでしょうか。神が宇宙だけじゃなくて、別の宇宙も作った。平行宇宙もできるように作ってみましたとか。そういった思想背景があるように思います。
マルチバースって、そもそもどういったものなんでしょう?
簡単に言うと、平行世界という日本語を使った方が分かりやすいと思うんですよね。要は、絶対交わることがないけれども、もし例えば江戸時代が、そのまま続いていたらっていう世界があったとして、我々は絶対見ることができないけれども、もしかしたらそういう時代があってそこが同時に流れているというようなものです。ただ、SFとか漫画だと、そこが交じり合う。独立していた平行世界が交わることを、マルチバースといいます。
例えばよしながふみさんの『大奥』という漫画がありますよね。あれは、パラレルワールドやマルチバースの1つと言ってよいと思います。徳川家光が歴史より早く亡くなって、女性が将軍になる。本当の歴史の中で、日本で女性が徳川将軍になることはないんですけれども、よしながさんが作った世界観では女性が将軍で、大奥が男性版になり、女性が支配している。
あの漫画の上手い所は、最終的に、また日本の本当の歴史に交わって、元に戻る所。もし、あのまま男性がほとんど亡くなる流行り病が治らなかったら、さらに別の平行世界が発生する。そのまま女性が例えば政治とかに関わり続ける世界が、そのまま続いたかもしれないので、もしかしたら近代化が違った形で行われたかもしれない。マルチバースは、色々な可能性の世界とも言えると思います。
なるほど……『大奥』もマルチバースだったのか……!
もうひとつは、『スパイダーマン:スパイダーバース』。あれはマルチバースを理解するのに本当に分かりやすい作品の1つだと思います。『ホワット・イフ...?』もそうですね。例えばキャプテン・アメリカがスティーブ・ロジャースじゃなくて、ペギー・カーターだったら?という前提で、別の世界・平行世界として動いていく。
元々、マーベルのコミックが、平行世界を取り入れたのが70年代の前半ころから。『ホワット・イフ...?』のコミックだと、スタン・リーが本当にスパイダーマンと一緒にいたらどうなっている?みたいな漫画も出たり、メリー・ジェーンがピーター・パーカーと結婚して、2人の間の子どもがスパイダーマンだったら、どんな世界になるのか、みたいなコミックがあったり。そういった作品がたくさん出てきました。
日本でマルチバース的な展開って何だろう?と考えたときに、ファンの二次創作もある種そうなのかな?と思いました。
その理解で合っていると思いますよ。ファンの方が、例えばこの2人が結婚しなかったけど結婚したらどうなったとか、色々と考えますよね。
あとは、ゲームの『スーパーロボット大戦』はマルチバースの集合体なんです。
スパロボ! それは盲点でした。
あれって、『ガンダム』とか『コードギアス』といったそれぞれのアニメの世界をマルチバースっぽくしちゃって、交わらないはずの主人公たちが一緒に戦う話ですよね。そういった意味では、『スパイダーマン:スパイダーバース』と構造は同じなんです。『スーパーロボット大戦』は今年30周年ですが、日本でマルチバースをずっとやってきたシリーズと言えますね。
ゲームだと、『MARVEL VS. CAPCOM』もそうかもしれませんね。
そうですね。あれも、マーベルの中ではマルチバースに認定されているはずです。もっと言うと、『Marvel's Spider-Man』シリーズもそうですよね。
お話を聞いて、日本にもマルチバースを題材にした作品がたくさんあるのだと発見になりました。
例えば、『ドラえもん』ののび太がジャイ子と結婚していたら?も1つの平行世界なんですよね。ジャイ子と結婚しないで、しずかちゃんと結婚するっていうのは、また別の世界で、2つの世界が平行で存在すると考えたら、ある種のマルチバースです。もちろんこれにはタイムトラベルの話やタイムパラドックスの話も絡んできて、『ドラえもん』の中では交わることがないのですが、藤子不二雄先生はそういったSF要素を巧みに扱っていますよね。
個人的には、『スパイダーマン:スパイダーバース』で日本国内にも一気にマルチバースという言葉が浸透した感覚でしたが、文化自体はずっと以前から根付いていたのですね。
そうですね。マルチバースという言葉を使う前は、パラレルワールドっていう言葉があって、ただパラレルワールドの場合は、交わらない平行世界をそのままやっていた。かたやマルチバースは、『スパイダーマン:スパイダーバース』みたいに交わっちゃうので、そこが真新しいのかなと思います。
MCUのフェーズ4のテーマが「マルチバース」と発表された際には、どう感じましたか?
予測の範囲内でした(笑)。ドクター・ストレンジが出てくるからには、マルチバースになるだろうなと思っていましたね。それこそ、次のドクター・ストレンジの映画は『ドクター・ストレンジ・イン・マルチバース・オブ・マッドネス(原題)』ですからね(笑)。
あと、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』で、ドクター・ストレンジは「サノスを倒せる1パターン」を導き出しますよね。あれもある種のマルチバースと言えますから。『ドクター・ストレンジ』の中でも、敵と戦う時に何回も繰り返すじゃないですか。あれもちょっとしたマルチバースですよね。
マルチバースのカギとなるキャラクターが、ドクター・ストレンジなのですね。その彼が、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場するということは……。
もうマルチバースですよね(笑)。予告編を観た限り、ドクター・オクトパスなどが出てきますし、エレクトロの登場も発表されているので、サム・ライミ監督版とマーク・ウェブ監督版が、ジョン・ワッツ監督版に合流するのかなと思います。そうすると、スパイダーマンはどうなんだろう?という期待値が上がるわけですよね。
トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが。
そうそう。もっとマニアックな話で言うと、日本の東映の『スパイダーマン』シリーズはどうなるんだろう?とかも気になってしまう。アニメも入れたら『スパイダーマン』って本当にたくさんの作品があるし、どのキャラクターが出てくるのか楽しみではありますね。
僕としては、トビー、アンドリュー、トム・ホランドの3人のスパイダーマンそろい踏みが観たい。もっと言うと、トム・ホランドの『スパイダーマン』は本作で終了らしいので、次のスパイダーマンとしてマイルズ・モラレスが登場して、4人で行動したら嬉しいですね。
そもそも、マルチバースって、どういうものでしょうか?
マルチバースっていうのは、1番分かりやすいのはパラレルワールド。多元宇宙、平行世界みたいなことなんです。
例えば、桃太郎の話で例えると、川から桃が流れてきますよね。そうすると、おばあさんが桃を拾って、桃太郎が生まれて鬼退治に行くっていうのが1つの流れ。でもここでもし、おばあさんが桃を拾わなかったら、桃太郎がいない世界になって鬼がいる世界っていうのが出てきてしまうわけですよね。だから、そうなった時に桃太郎がいて鬼を倒す世界と、桃太郎が生まれなくて鬼がいなかった世界っていうのが2つ存在するっていう考え方で、これが両方ともマルチバースの関係です。
さらにややこしいのは、桃太郎が鬼を退治する世界とはまったく別に、一寸法師が鬼を倒すというのもある。こういうのが大きく言うとマルチバースですね。いわば“たらればの数”だけ世界がある、ということです。
それを昔は主にSFで「パラレルワールド」という言い方をしていたんですが、コミックの世界で「マルチバース」という言い方を使うようになってきて、本や映画に派生していったように思います
MCUのフェーズ4のキーワードがマルチバースと発表された際は、どう感じましたか?
ついに来たかと思いましたね。
そもそも、コミックでマルチバースの考え方が出てきた経緯って、ファンに向けた意味合いが強かったと思います。
と、いうと?
時代ごとに作品をリセットしていかなきゃいけないっていう時に、前好きだったバージョンを否定されるのがファンは嫌なんです。だから、それはそれで、ちゃんと別世界の話なんですよって言うと、精神的に安定する。
多分これから先、新しいアイアンマンが出てきた時に、「ロバート・ダウニー・Jr.のアイアンマンが私は好きだった」という人は必ずいる。そこで、「別の世界」と言ってくれると、安心できるんです。マーベルは『007』みたいに役者を代えてつなげていくことをしないから、マルチバースという考え方は悪くないなと思います。
ファンに優しいシステムでもあるんですね。
そうですね。「アンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンが1番イケメンで好きだ」っていう人もいるし。そういう“前”を否定しない感じが、すごく大事なことだと思います。
『スパイダーマン』シリーズでいうと、トム・ホランドの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のラストで、「マルチバースじゃん!」と話題になりました。
なりましたよね。あれは衝撃的な展開ですよね。
ジェイムソン編集長が出てきたときはびっくりしたし、『モービウス』の予告編で、マイケル・キートンが出てきた時もそう。どういうふうにつじつまを合わせていくんだろうなって。
MCUのマルチバースもあれば、ソニーのマルチバースもありますよね。
そう。まずMCUのマルチバースの考え方って、色々な可能性のぶんだけ別れていくというものだと思います。『ホワット・イフ…?』でペギー・カーターが超人血清を受けちゃって、キャプテン・カーターが生まれる世界が流れていたり、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』でロキは死んだはずだったのに、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の時にタイムトラベルの中で、ニューヨークに逃げてきたから別のタイムラインが発生したり……。
今お話しいただいた『ホワット・イフ…?』もそうですが、『ワンダヴィジョン』や『ロキ』でマルチバースをにおわせ続けて、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でついに来るかといった持っていき方も、非常に上手いなと感じました。
おっしゃる通り、なかなかついていけない「マルチバース」という考え方を浸透させるために、徐々に慣らしていったところはありますよね。
対して、ソニーだとアカデミー賞をとったアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』がありますよね。スパイダーバースというのは、大雑把に言うと“スパイダーマンを起点としてマルチバースを表現した言い方”ですね。
マイルズ・モラレスがいてピーター・パーカーが死んだ世界、ピーター・パーカーが生きている世界、といったように、別々のユニバースで存在しているイメージ。
『ヴェノム』の最後に、「別の世界では…」といって『スパイダーマン:スパイダーバース』の映像が挿入されましたよね。ここからも読み取れるように、ソニーの考えとしては平行世界としてのマルチバースなんですよね。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも、トビー・マグワイア版の『スパイダーマン』の敵や『アメイジング・スパイダーマン』の敵が出てきそうだし、時空を超えたら一緒になれる、という考え方ですよね。
夢がありますよね。
そうですね。日本でも、ファンの暗黙の了解だと思いますが、ゴジラもウルトラマンも仮面ライダーも、マルチバース的なところはありますよね。1つのコンテンツを長く続けると、そういう若干マルチバースとか、これは別の世界感ですみたいなことが発生してくる。
おっしゃる通り、コンテンツを成長させ続けていくためにも便利だし、時代にも合わせて変えていける自由度もありますね。
もう1つ、マルチバースが盛んになってきた理由の1つが、ダイバーシティ&インクルージョンだと思います。黒人のバージョンを入れたりとか、女性版を作りたいとか、LGBTQもそう。色々なバージョンを作っていきたいとなったときに、マルチバースが増えていくんですよね。『スパイダーマン:スパイダーバース』なんて、まさにそうでしたよね。
確かに……! ちなみにすぴさんは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はどういう展開になると思いますか?
予告を観た限りで言うと、ドクター・ストレンジがへまをやって、マルチバースがつながっちゃって他のバースにいた人たちが出てくるっていう所が予測ですが、あれだとあまりにも僕の敬愛するドクター・ストレンジがドジすぎるって思っちゃう(笑)
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』も、ミステリオは味方だとずっと言っていましたよね。まさか、ニック・フューリーが本物じゃなかったっていうのは想像していなかった。『スパイダーマン:ホームカミング』でいうと、自分の好きな子のお父さんがバルチャーだったとか、このシリーズって必ず大どんでん返しがあるので、あの予告は鵜呑みにはできないなと(笑)。
確かに、トム・ホランド版の『スパイダーマン』シリーズには、毎回騙されます(笑)。
ね(笑)。ただ、真実はどうあれ、僕はドック・オクの出てくるトビー・マグワイアの『スパイダーマン2』がすごく好きだったし、『アメイジング・スパイダーマン』の時に、ジェイミー・フォックスのエレクトロがすごく良かったのに、いまいち活躍しないで終わっちゃったので、また出てきてくれるっていうのはうれしいし、楽しみです。
世界中での予想合戦も凄いですよね。取り調べのシーンで「マット・マードック(デアデビル)が出てくるんじゃないか!?」というような期待の声もあったそうですね。
ファンの方の書き込みを見ていてすごいなと思ったのは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の予告に出てくるドック・オクのメガネが、『スパイダーマン2』で銀行強盗をやっている時のメガネと一緒だから、まだ悪い奴なんだとか……。すごく細かい所までファンの人は見ていて、なるほどと驚かされます。
ヴィラン的には、どれくらい登場するとお考えですか?
予告だとドック・オクが出てきて、エレクトロも出てきて。グリーン・ゴブリンに、最新の予告編だとサンドマンもリザードも確認できたので。これだけでもすごいですが、さらにもっとすごいのが出てくるかもです。皆さんが期待している“俺たち”の人とか(笑)
ただもう1つ、大どんでん返しで、ワンダ姉さんが最後に出てきて、大変なことになっちゃうとかもあるかもしれない。
なるほど、ドクター・ストレンジ以外にもMCUのキャラクターが出てくるかもしれない。
そうですね。『ドクター・ストレンジ・イン・マルチヴァース・オブ・マッドネス(原題)』に絶対つなげるんでしょうから、どうつながっていくんだろうなと思っています。
これは勝手な予想ですが、ポスト・クレジットでピーターが自分をふがいないと思ってシャドーボクシングか何かしていると、シャン・チーが出てきて、「俺がトレーニングしてやる」っていう凄まじいオチかもしれない(笑)。マーベルは本当に、何をやってくるのか観てみるまで分からない……。
観るまでは絶対予想できないサプライズが、いくつかあるだろうと。
と思いますね。『エターナルズ』やドラマの『ホークアイ』で『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』につながる伏線があるのかどうかとか、そういう所も楽しみではあります。
でも本当に凄いなと思うのは、マルチバースのアイデアもそうですが、ファンが見たいものは、ちゃんと見せてあげるというところ。そこは本当に素晴らしいですね。